時は80年代半ば、
俺が15~16歳の頃だったろうか。

それまでガンダムのプラモデルに夢中だった友人たちが俄かにロックに目覚め、レコード収集やらギターやら手にし始めた。

放課後は友人の部屋に直行して、当時仲間内で流行ってた44マグナムとかラウドネスとか、そういったレコードを聴きながら、
まだ結成してもいない自分のバンドについて、あれこれと夢を巡らせたりするという小僧たちだったんだけど。


ある日、
いつもとは別の友人宅へ行くと、彼の兄貴の部屋に案内されたんだけど、そこになんとも見慣れないものがある。

ロックのレコードには違いないんだけど、一般的にレコード店で見かけるような華やかなジャケットではなく、
モノクロだったり、恐ろしげなコラージュ写真だったり、
数バンドが一緒に収録されてるオムニバスとか、チープな装丁のデモテープとか…。
もう、カルチャーショック過ぎてパニック気味の俺に、その兄貴が教えてくれた。

「これはインディーズ…。自主制作なんだよ」と。

「レコードを出す」なんて、
たぶん、物凄く上手くて人気のあるバンドが、ある日レコード会社からスカウトされるようなもんだと思ってた。
制作や流通に関してなんて、意識した事もなかったのだ。


で、そのレコードたちを聴かせてもらう。
ジャケットから受ける印象以上にノイジーで、暴力的で、何を歌ってるかも不明。
一般的なレコード店の店頭に並べることなんか不可能で、むしろそれを拒んでいるように思えた。

大々的にメディアに取り上げられることもなくアンダーグラウンドで育まれた音楽たち。
それを入手するには特殊な品揃えのレコード店へ行くか、あるいは通販か…。
TVやラジオからは流れないし、音楽紙にもほとんど載らないのだから、こちらが能動的に探さなくてはならないという構造。

それはもう、カミナリに撃たれるような感覚で、
その、底しれない文化をもっと知りたいと渇望した。


以来、
新聞配達のアルバイトで貯めた僅かな金を持って、ちょくちょく札幌までの日帰り旅行をするようになる。

狸小路1丁目の「BLACK」からの「u.k.エジソン」は定番コース。
どちらも今は無くなってしまったけど、当時の俺にはワンダーランドだった。
店員さんもお客さんも、なんだか別の国の住人みたいに思えて、やたらと質問したりした。


もしも、いつかタイムマシンに乗ることができるなら、
あのレコード店でチョイスに悩んでいる当時の俺にさりげなく近づいて、「このレコード知ってる?かっこいいんだぜ♪」なんて話しかけてみたい。